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FOOL THE APRIL

日常をなんとなく記録するブログ。

具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ(第1回)

■ この本は

『「具体(的)」の「わかりやすさ」に疑問を投げかけ、「抽象(的)」の持つ「よくわからなさ」に対する誤解を解く』本だ。

具体と抽象 ―世界が変わって見える知性のしくみ

具体と抽象 ―世界が変わって見える知性のしくみ

■ この本を読んだのは

オブジェクト指向における抽象化の概念をよりよく理解しようと考えたから。
結果として、抽象化そのものに対して以前よりも理解が深まったように思う。
未だ本格的なオブジェクト指向プログラミングを実践していないため、オブジェクト指向そのものについての理解は深まっていない。

■ 以下、要約とメモ

  • はじめに
  • 序章 抽象化なくして生きられない
  • 第1章 数と言葉 人間の頭はどこがすごいのか
  • 第2章 デフォルメ すぐれた物まねや似顔絵とは
  • 第3章 精神世界と物理世界 言葉には二つずつ意味がある
  • 第4章 法則とパターン認識 一を聞いて十を知る
  • 第5章 関係性と構造 図解の目的は何か
  • 第6章 往復運動 たとえ話の成否は何で決まるか
  • 第7章 相対的 「おにぎり」は具体か抽象か
  • 第8章 本質 議論がかみ合わないのはなぜか
  • 第9章 自由度 「原作」を読むか「映画」を見るか
  • 第10章 価値観 「上流」と「下流」は世界が違う
  • 第11章 量と質 「分厚い資料」か「一枚の図」か
  • 第12章 二者択一と二項対立 そういうことを言ってるんじゃない?
  • 第13章 ベクトル 哲学、理念、コンセプトの役割とは
  • 第14章 アナロジー 「パクリ」と「アイデア」の違い
  • 第15章 階層 かいつまんで話せるのはなぜか
  • 第16章 バイアス 「本末転倒」が起こるメカニズム
  • 第17章 理想と現実 実行に必要なのは何か
  • 第18章 マジックミラー 「下」からは「上」は見えない
  • 第19章 一方通行 一度手にしたら放せない
  • 第20章 共通と相違 抽象化を妨げるものは何か
  • 終章 抽象化だけでは生きにくい
  • おわりに

はじめに

時代はわかりやすさを求めている。
これは普遍的かつ非可逆な流れである。
例えば、会社は一人の「設計者」によって作られるが、万人のものとなるために「民主化」される。
この状況は一度出来上がってしまえば、決して後戻りすることはない。
後戻りが起きるのは新しいものが古いものに取って代わる、変革の時だけである。
「時間経過とともに民主化される」構図は会社に限った話ではない。
わかりやすさとは多数派に支持されることを指す。
故にわかりやすい商品は売れるし、わかりやすいことをやっている人は会社で優秀とされるし、選挙でも大抵「わかりやすい」人が勝つ。
一つの仕組みの中で、わかりやすさは非可逆的に増殖していく。
わかりやすさの象徴が「具体性」である。
どのような媒体においても「わかりやすさ」=「具体性」が求められ、「抽象的」な表現は大多数の人間に徹底して嫌われている。

ではなぜ本書では「抽象」を扱うか。
それは社会がわかりやすさを必要とする成熟期にあるからこそである。
古いものを破壊してそれまでの弊害をリセットするような新しさをこそ必要とする衰退期、世代交代に備えるためである。
「抽象概念を扱う」能力こそ、変革の時期に必要とされる能力であるからである。

本書の想定読者は以下の通りである。

  • 抽象概念を扱う思考能力を高め、発想力や理解力を高めたい人
  • わかりやすさばかりを求める人たちとのコミュニケーションに悩んでいる人

本書によって、一人でも多くの人が抽象化思考の重要性を再認識するとともに、「抽象度」という、世の中をとらえる「共通の物差し」が日常的に語られる日が来ることを祈ります。

序章 抽象化なくして生きられない

本書のテーマは「具体と抽象」です。

本書の目的は、この「抽象」という言葉に対して正当な評価を与え、「市民権を取り戻す」ことです。

本書を読む前と読んだあととでは世の中がまったく変わって見える、それが本書の目標です。

具体 抽象
わかりやすい わかりにくい
解釈の自由度が低い 解釈の自由度が高い
個別対応 まとめて分類
応用が利かない 応用が利く


世界は「具体と抽象」という対立概念から成り立っているが、我々は普段この2つの関係性について考えることはない。
一般的に認知されているのは「具体=わかりやすい」「抽象=わかりにくい」という印象のみである。
ともすれば悪者扱いされるだけの「抽象」だが、「抽象化を制するものは思考を制す」と言っても過言でないほどこの抽象という概念には威力がある。
抽象と具体を行き来を意識することで、間違いなく世界が変わって見える。
人間の思考過程においては必ずなんらかの形でこの抽象と具体の行き来を行っているにもかかわらず、大抵の人はそのことを体系的に学ばずに一生を終えてしまう。
本書では抽象の重要性を理解するために、その概念と実生活においてどのように適用するかについて解説する。

第1章 数と言葉 人間の頭はどこがすごいのか

人間の特性である高度に発達した知能の基本となるのは「言葉」や「数」である。

言葉と数を生み出すのに必要なのが、「複数のものをまとめて、一つのものとして扱う」という「抽象化」です。 言い換えれば、抽象化を利用して人間が編み出したものの代表例が「言葉」と「数」です。


抽象化の存在しない世界を想像してみるには、言葉や数が存在しない世界を考えてみるのが手っ取り早い。
コミュニケーションは成り立たず、経済活動もままならず、科学技術の発展もありえないだろう。

数と言葉を成立させるためには、「『まとめて同じ』と考える」ことが不可欠です。 りんご三個も犬三匹も松の木三本も本三冊も、「まとめて同じ」と考えることから「三」という数が成立します。


抽象化なしに「そこの鯵」を特定するためには想像を絶する「具体的な」説明が必要となる。

たとえ「バウリンガル」が完璧な単語レベルの翻訳機能を提供するとしても、犬と人間では抽象化された概念の理解力に大きな隔たりがあるため、スムーズなコミュニケーションは図れない。
抽象化レベルが合わなくてはコミュニケーションもままならない。

このように何気なく使っていながら、人間の知能の「すごさ」を最も象徴的に表すのが「抽象化」です。 その威力や使い方について、次章以降で探っていくことにしましょう。

第2章 デフォルメ すぐれた物まねや似顔絵とは

抽象化とは一言で表現すれば、「特徴を抽出する」ということ。
様々な特徴や属性の中から、他のものと共通の特徴を抜き出してひとまとめにして扱うということである。
裏を返せば、共通の特徴とは関係無いものは全て捨て去ることを意味する。

同じ対象であっても、抽象化後に持つ特徴や属性は、抽象化する際の目的や方向性によって変わる。
例えば一人の人間を抽象化するとして、銭湯やトイレの場合、男か女かが重要となってくるし、映画館の料金の場合は社会人か学生か子供かという属性が重要な特徴となる。

抽象化とは一言で表現すれば、「枝葉を切り捨てて幹を見ること」といえます。 樹木の場合には、どれが「幹」でどれが「枝葉」であるかは固定されていますが、抽象化における「幹」と「枝葉」は目的によって異なります。 ところが人間のこだわりは目的によって変えるのが難しいために、まわりからみると「枝葉にこだわっている」人が多いように見えます。


物まねや似顔絵で似ていると感心させられるものには二通りあって、写実的で細部に渡り本物そっくりなものと、どこが似ているのかわからないのに似ていると思わせる、特徴がデフォルメされたものである。

抽象化とは、このような「デフォルメ」です。 特徴あるものを大げさに表現する代わりに、その他の特徴は一切無視してしまう大胆さが必要といえます。

第3章 精神世界と物理世界 言葉には二つずつ意味がある

たとえば、(ボールを)「投げる」という物理的動作を「あきらめて放棄する」という抽象概念と結びつけ、同じ「投げる」という言葉を使うのです。 このように、単に目に見える具体的な世界で起こっている事象を精神的な世界にも拡大して(あるいは「目に優しい」のような精神世界の表現を物理世界に逆方向に拡大して)思考の世界を広げられるというのが人間の脳の優秀なところです。 人間が楽しんだり悲しんだり悩んだりするのは、「よくも悪くも」抽象化という行為のおかげです。 抽象化によって人間の精神世界が何十倍にも広がっているのです。

第4章 法則とパターン認識 一を聞いて十を知る

抽象化の最大のメリットは、複数のものを共通の特徴を以ってグルーピングして「同じ」と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用可能になること。

抽象化とは複数事象の間に法則を見つける「パターン認識」の能力ともいえます。 具体レベルの個別事象を、一つ一つバラバラに見ていては無限の時間がかかるばかりか、一切の応用が利きません。 一般に「法則」とは、多数のものに一律の公式を適用でき、それによって圧倒的に効率的に考えることを可能にするものです。


法則は物理法則に限らず、経験則や、話している相手の表情「パターン」なども含む。

抽象化なくして科学の発展はなく、抽象化なくして人類の発展もなかったといってよいでしょう。

第5章 関係性と構造 図解の目的は何か

抽象化には、「関係性と構造」という側面もある。
具体が個別、バラバラを扱うものだとすれば、抽象はそれらをまとめて「関係性」や「構造」として扱うことと言える。
鮪は魚という動物である、といった抽象化は部分集合であるが、たとえば「反意語」という言葉(概念)は、賛成と反対、自動と手動といった、二つの言葉同士の「関係性」を抽象化したものである。
「関係性」は一般に直接目に見えないという特徴を持つ。
人物相関図は、記号(名前や矢印など)を用いて複数の人物などがどのような関係にあるかを図解したものである。
相対的なつながりのみを表現することが図解の主な目的である。

第6章 往復運動 たとえ話の成否は何で決まるか

たとえ話のうまい人とは「具体→抽象→具体という往復運動による翻訳」に長けている人のことを言います。

  1. たとえの対象が誰にでもわかりやすい身近で具体的なテーマ(スポーツやテレビ番組など)になっている。
  2. 説明しようとしている対象と1.のテーマとの共通点が抽象化され、「過不足なく」表現されている。

つまり、「共通点と相違点」を適切に掴んでいることが抽象化、ひいてはたとえ話の出来栄えを決定するというわけです。

第7章 相対的 「おにぎり」は具体か抽象か

何が具体で何が抽象かというのは絶対的なものではない。
「具体と抽象」という言葉自体、「相対的な関係性」を示す概念である。
絶対的な具体性や絶対的な抽象性というものが存在するわけではない。

たとえば手段と目的も相対的なものである。
目的一つに対して手段は複数、という形で階層が成立するが、目的にはさらに抽象度の高い「上位目的」が存在する。

このように具体と抽象は「上下」で階層構造を築いている。
階層の上位が持っている性質を下位の階層は引き継いでいる(逆はそうではない)。

これが、学問や知の発展には大きく貢献します。 つまり、「一を聞いて十を知る」という、第4章で解説した抽象化の最大の意義は、「同種の集まり」の間での汎用性を高めるという「横方向」の応用に加えて、上の階層のルールや属性が下の階層にも同じように適用できるという点で「縦方向」の応用も意味することにあります。